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乙女から見る21世紀のコンシュマー産業の行方Vol.88 正にバカプコン


近年のカプコンの製作のトップとして、事実上カプコンの舵取りをしていた稲船氏(株式会社カプコン常務執行役員 開発統括本部長 兼 コンテンツ統括及び、株式会社ダレット代表取締役社長)がカプコンを退社するという一報はあちこちで大きな話題となってますが、cocも正直言って驚きました。

しかもその理由を知ると尚更…考えさせられるものがあります。

理由については4gamarさんに3時間にも及んだ独占インタビューが記事として公開されてますので、そちらを御覧下さい。

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■稲船敬二氏は,何を思い,何を考え,何を目指してカプコンを辞めていくのか。渦中の氏に直撃インタビュー

http://www.4gamer.net/games/084/G008467/20101029004/

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このインタビューを読んだ方は色々な印象や感想を抱いたと思います。

ただ、重要なのは彼の言い分が正しいのか間違ってるのかということではなく、そして彼の今までの仕事を否定したり肯定したりするのでもなく、本気でこの業界を変えたいという熱意と、その戦いに実際に動いた一人の男の決意表明であると捉えるのが最もベターではないでしょうか。やはり実際に行動に移したという説得力は何物にも勝ります。

ただ、個人的にはインタビューの中でも出てきますが、稲船氏を不要と放り出したカプコンという会社で、果たして若い製作の人らは夢や志、言い方を代えれば野望や欲望は叶うと思うんでしょうか?

稲船氏が製作にトップに就任してから、彼のやってきた仕事が全て大成功したわけではありません。当然のことながら失敗もあります。しかしモンハンというコンテンツを生み出し、カプコンの主軸コンテンツにまで成長させた手腕はとても凄い事だと思います。

有名な話ですが、モンハンの初作は製作会議でとても評判が悪く、当時はまだビジネススケールとしては小さかったネットゲームという側面も叩かれる原因となり、こんなもの売れるか!っと突っぱねられたそうです。しかし氏が粘り強く上を説得し発売に漕ぎ着けた。

新規タイトル、ネットワークマルチプレイ、PS2コントラーラーの全てのボタンを総動員する敷居の高い操作性っといったハードルがあったにも関わらず、口コミのような感じで30万本のスマッシュヒットを記録しました。

後にそのコンテンツがカプコンの主軸コンテンツへと成長していったのは言うまでもないでしょう。

現状でもモンハンはカプコンという会社を支えてるコンテンツです。それを世に出した人でもある彼を不要としてしまう会社の態度というのは、如何なものか…。

確かにもうモンハンは稲船氏が居なくても製作は続けられます。シリーズは延べ8作も出ていますから、モンハンはどう作っていくべきか、どう進化していくべきなのかという方向性も、製作の人らは理解してるでしょう。

しかし、次のモンハンと成り得るコンテンツを生み出す可能性の高かった稲船氏を放出するというのは会社の無能さを宣伝するようなものです。

そして、カプコンという会社は成功を収めた人間であっても、会社に意見を言うようになれば捨てるという会社であるということも製作の若い世代に明言したことになります。

彼の発言は今までもあちこちで物議を醸し出してはいましたが、ハッキリ感じるのはこの人はクリエイターなんだなってことです。良いものを作るための仕組みがもう既存のスタイルでは腐りきってるから、良い物を作る為に良い環境を作ろうよっという非常にシンプルなことを言い続けてきた人です。

しかし、変化を求める人には、コンサバティな集団からの弾圧が待っています。これはいつの時代、場所を選ばず常に起きてきたことです。

だからといってコンサバティな人らが悪かと言うと、そう単純な話でもありません。稲船氏のとった行動はカプコンを出るという選択でしたけど、残って戦う、調和と融合、そして進化という意味での変化を促す手段もあります。

どっちが方法論として正しいかなどは言えません。

余剰な人員を抱え、良い物を作れる環境ではなくなっている。結果それはカプコンを死に追いやる事だから何とかしろ!っという主張も正しい。しかし、余剰であると理解していてもそれらのスタッフ達の生活を守るというスタンスで動いてる経営陣の方向性も間違いとは言えない。

どちらも大切な何かを守る為に必死です。その必死な物が相容れられない状況になった結果が今回の稲船氏の退社だとは思うんですが、先にも書いたように、稲船氏に対して不要という姿勢をとった会社の姿勢は絶対的に間違ってるし、悪であると言えると思います。

ですが、稲船氏の語る論理については、一件大局的なようにも思えるかもしれません。しかしながら、実の所非常に小局的な言い分だとcocは感じます。もう少し補足するとカプコンというような大企業に向けて放ったところで実現できない理想論です。

ですから、彼の理論を実現するには、やはり独立というのがベターです。あれこれと無駄な贅肉が付きすぎてる大きな会社を変革させるより、独立して1から理想に近い姿で会社を作り上げていくほうが建設的です。

そして、その独立を支援し、対等な相互関係を保つことが、カプコンとしては最も正しい選択方法だったと思います。

ゲーム産業なんてものは、まだまだ若い産業ですし、成熟すらまだまだ先の途にある業界だと言えるでしょう。会社、企業として産業の中をどう立ち回るかの仕組みすら完成していないのが現状ですから、産業の一員として鋭敏に立ち回れない所は自然と淘汰されていきます。

既に珍しいことではなく、大手パブリッシャーの経営破綻、または合併などがその淘汰であり、産業体として鋭敏に立ち回れてるところが生き残っているわけです。ですが、現在生き残ってるパブリッシャーが全て勝者かと言えば、答えはNOでしょう。特に今回の稲船氏の退社騒動において、カプコンという会社がどうやら勝者ではないみたいだぞっということがバレてしまいました。

ちなみにこの場合の勝者とは、売り上げや利益といったことではなく、産業体としての自覚、加えて的確な経営資産の管理が出来ているか否かということです。

書くまでもありませんが、優秀なクリエイターは経営資産です。その資産を自ら放出するというのは産業体の一部としての自覚が足りてません。

そもそも、カプコンだけの問題ではない余剰人員の問題と言うのはゲーム産業の主要を担ってきた各社が自ら撒いた種なんですよ。

90年代初頭に大手パブリッシャーは資本面でも協力し合って、多くの"ゲームクリエイター養成学校"といったものを作りました。cocはこれがそもそもの間違いだったと思っています。

果たしてクリエイターは学校で量産できるものなんでしょうか?

勿論、そういった養成所上がりで活躍してる人も居ますが、殆どがただの作業員と化してるのが実情です。日本のゲーム製作の現場に職人が多いというのもそれを裏付けてます。つまりレイヤー処理は上手いけど企画は出来ません。ビジュアルエフェクトの処理は上手いけど、キャラクターデザインは出来ません。そういう人らが非常に多い。

そして、そういう人らを量産したのが大手パブリッシャー。で、量産した手前、抱え込まないわけにもいかないから余剰人員となる。で、制作費は膨らんでいく。膨らんだ製作費を回収するには売れる数が読みやすい続編を作るしかなくなり、養成所上がりはどんどん職人化していき、企画を上げる人が育たない。企画する人が育たないから新規タイトルが立たない。立てようとしても抱え込んでる大人数のスタッフに仕事を割り振らなきゃいけないから、1タイトルの製作費が削れない。削れないから、見込みのありそうな新規タイトルでも製作に入れない。だから安定した続編を作る。

本末転倒ですよね。

そういった意味では稲船氏がインタビューの中で語っていたサラリーマン化、売れなくても給料は貰えるという日本の悪しき慣習は、重要な結論と決断(歩合制や社内ポスティング制度など)を引き伸ばしてるだけで、業界にとって何らプラスにならないどころか、マイナス要素になってるのは事実でしょう。

余剰な人員を抱えてるということは、常に赤字を背負ってるのと同じですから、そこを改善しなければいけない。リストラをしないならしないで、成果報酬型に切り替えるとかしていかないと、製作は常に抱えてる赤字を0に戻す為の製作しかできなくなりますから、稲船氏のようなクリエイター色の強い人にとっては苦痛以外何物でもないでしょう。

そこらへんの部分でカプコンが動かないというのは、理想論云々とはまた別の次元で、経営側の現状把握能力の欠落であるとcocは感じます。

話を少し戻しますが、そもそも…、クリエイターなんて養成しなくて良いんです。ゲームが好きでゲームが作りたい!自分ならこういうゲームを作る!絶対これなら売れる!とかっていう熱量を持った人間なんて、放っておいても現れるんですw

だって、現状のパブリッシャーで中堅かその上のポストにいる製作の人なんて、漏れなくそういった部類の輩っしょ。

そもそも、サブカルチャー的な娯楽産業の作り手というのは、そういう熱量がなければ、売れるものなんて作れません。人を楽しませたい。人を驚かせたい。人を煙にまいてやりたいといったような作り手の思いが込められてこそ、面白い物は生まれるわけですし。

最近多くないですか?気付きませんか?作り手が何を思って、何をさせたくて作ったゲームなのか判らない物。

グラフィックも問題ない。操作性も問題ない。ゲームシステムの根本も悪くは無い。でもそれだけってゲーム。

俗っぽく言うと、アクがないんです。アクというのは作り手の思いから生まれるものであって、それがその作品にとって良い結果を生んだのか否かというのは別の問題で、プレイしていて製作者はキチガイか?とか製作者はトコトン下品だなとか、そういうのを感じてこそ人が人へ娯楽を提供したことになると思うんです。

モンハンだって、初作が出た当時は非常にアクの強いゲームでした。貧相な武器と防具だけ装備して、アホみたいにデカイ怪物を倒せ!ですからね。しかも1回狩りに出掛ければ、50分フルタイムの制限時間を使い切ってしまう場合もあるわけです。

50分間、攻撃して、追い掛け回して、攻撃されて、追い回されて、クタクタになって得られた報酬が怪物の鱗3枚と牙が2本とかなわけです。全然割りに合わないわけですよ。

で、作った武器や防具を強化するにもベラボウな金額と集めるのにどれだけ時間がかかるんだっていう素材を要求されるわけです。

なんてマゾいゲームなんだ!ふざけんな!って感じました。けど面白かった。それは作り手の思いが、言葉として明確に表現できないかもしれないけど、プレイヤーに伝わってたからではないでしょうか?

バイオハザードだってそうです。初作の衝撃を覚えてますか?2Dから3Dへとゲームテクノロジーが進化した際に、今まで表現したかったけど出来なかったことを目一杯やってやる!本気で驚かして、怖がらせてやるという思いが、有る意味悪意に近いくらいの勢いでゲームの中から感じられました。

結局、ゲームというのは作り手がどれだけその作品で楽しませてやろうと思うか、その熱量で面白い、面白くないというのが別れるのです。

その熱量を持った作り手の活動を妨げてしまう仕組みを作ってしまったのが、現状の日本のゲーム産業の不振の大きな要因ではないかとcocは考えてます。

そして、その具体例が、今回の稲船氏のカプコン退社という形で表面化したのではないというのが、今回の騒動からcocが感じ取った結論です。

別に個人的には稲船氏を支持するとかしないとか、彼の発言を肯定するとかしないとか、そういうことへの比重はコレといって特別傾いていません。

ただ思うのは、良くも悪くも、言い方を代えれば人間なんですから、真っ当なことを話す時もあれば、間違ったことを話すこともありますし、その時々の発言で彼をどうこうと言うつもりは無いのです。ただ、作り手として主張する。作りたいんだと主張する。そういう熱量も持ってる人は嫌いではありません。

なので、彼の今後には大いに期待します。

そして、誤りに気付いたカプコンが変化していくのにも期待します。

何故なら、ゲームが好きだからです。


それでは今回はこれにて。また次回です。



*原文投稿時間不明の為、00時00分として転機しました。

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